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さよなら、篠江龍月

last update Last Updated: 2025-09-06 06:20:42

翌日、私は部屋に戻り、荷造りしていた。ここを出るのだ。一つ一つが私にとって良い思い出だった。龍月はああ言っていたけど、結婚生活はそれなりに楽しい事もあった。

(でも楽しいと感じていたのは私だけだったようね……)

ふと、ベッドサイドのテーブルに目が行く。そこにはもうずっとそこに置かれている指輪が一つ。結婚指輪だ。結婚式の時に仕方なく付けた指輪を、翌日には外し、そこに置きっぱなしにした龍月。

(笑えるわね……)

そう思った私は自分が付けている指輪を外し、その指輪の横に置く。

粗方片付いただろうか。龍月は部屋に戻ってはいないようだった。ホテルか、それとも華凜のところか……もう私にはどうでも良い事だった。こうして荷造りしていると、時間が過ぎるのが早かった。時折、休憩を挟みながらの荷造りが終わり、一息ついて、私はテーブルの上の離婚届に目をやる。これにサインしたら終わりだ。私はそこにサインする。篠江杏……そうサインするのはこれが最後だ。旧姓の峰月に私は戻るのだから。

荷物を持って、移動する。ここの使用人たちは私の動向を見守っているだけ。いつもそうだった。

「お願い、荷物を運んで」

私がそう言うと使用人のうちの一人が私のまとめた荷物を持つ。

「下にタクシーが居るわ、タクシーに荷物を積んでおいてください」

そう言いながらリビングに入るとそこには龍月が居た。どうやら今、帰って来たようだ。清潔な服、そして整った髪型。どこかに泊まっていたのだろうとすぐに分かる出で立ちだった。

「帰って来るとは思って無かったわ」

窓の外はもう暗い。私は龍月に近付いて、書類を差し出す。

「サインしたわ」

龍月は私の渡した書類に目を通すと言う。

「随分、早いな。また何か企んでいるのか?」

(企む……?)

龍月は書類から視線を上げて私を見る。その視線は鋭く、冷たい。

「こんなにあっさり引き下がるなんて……」

そう言って溜息をつくと、唐突に書類をテーブルにパシッと叩きつけ、私に詰め寄る。

「何が望みだ?言えよ」

龍月の視線はどこまでも冷たく、そして私が何をしても龍月は私を信じていないのだと分かる。

「別に何も。あなたがサインしろと、そう言ったから、そうしただけよ」

本当は体中が震えていた。でもそれを悟られたくはなかった。龍月が鼻で笑う。

「くだらない芝居は止めるんだな。大人しく従えば俺が許すとでも?」

龍月はソ
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  • あなたの懺悔に口付けを 離婚後、元夫は私の妊娠検査票を見て発狂した   杏の決意と決断

    目が覚める。天井が白い。薬品の匂いがする……。辺りを見渡す。……病室だ。「姉さん……」声の方を見ると、桃李が私の手を握っていた。「桃李……私……?」そう聞くと桃李が言う。「倒れたんだ」そう言われてハッとする。「赤ちゃんは……?」そう聞くと桃李が微笑む。「無事だよ、奇跡的にね」桃李はそう言いながら私の頭を撫でる。「実はすごく危ない状態だったんだ。でも奇跡的に乗り越えた」胸が苦しくなる。良かった……。そう思いながら私は自身のお腹を撫でる。涙が溢れて来る。お腹の子が無事だと分かった瞬間、私は自分の中にあった憎悪や絶望、恐怖がふわっと消えて行くのを感じる。そして自分の中に残ったのはただただ、この子が愛おしいという感情だけだった。「もう、大丈夫なのよね……?」そう聞くと桃李が力強く頷く。「あぁ、大丈夫だよ」そう答えた桃李を見て、私は確信する。桃李は腕の良い医師だ。その桃李がそう言うのだから大丈夫なのだろう。病室には桃李以外には人が居なかった。私が倒れても龍月はもう付き添ってはくれないのだ。そう思うと悲しみが込み上げる。「何で篠江さんに姉さんの妊娠を言わないんだよ」桃李はそう言いながら怒りのあまりか、涙ぐんでいる。「アイツは姉さんに借りがあるじゃないか」借り……か。確かにそうだ。でもそれは今更掘り返す事じゃないし、今、重要なのはそれじゃない。「もう良いのよ、桃李」私は諦めを受け入れる。「龍月は私を裏切って、華凜と寝たの。私の義理の妹である華凜と関係を持っている。あれだけ私が華凜には気を付けて、華凜に騙されないでと言ったのに、龍月は私よりも華凜の事を信じた……それに」そう言って私は桃李を見る。「私が倒れても龍月は来なかったでしょう?」そう聞く私に桃李が苦笑いする。「でも本当にそれで良いのか?姉さんは何年も篠江さんを愛してたじゃないか。待ち望んだ子供も居るって言うのに……」そんな桃李に私は微笑む。桃李が思い付いたように言う。「あの手紙の主!そうだよ、その運転手を連れて来れば良いんじゃないか!」私は既に自分の手の中にある諦めの感情を転がす。「もう良いのよ。手紙の主が誰なのか、真実は何なのか……もうそんな事はどうでも良いの」天井を見つめる。「龍月は選択したの。私じゃなく、華凜を選んだ。だから私も自分の道を選ぶわ」あの

  • あなたの懺悔に口付けを 離婚後、元夫は私の妊娠検査票を見て発狂した   義妹・華凜

    私はそう言った桃李を見る。桃李の顔には怒りが滲んでいる。「姉さんから話は聞きましたが、全て、嘘だ。だっておかしいじゃないですか、姉さんがそんな指示を出すなんて有り得ない!それに姉さんと篠江さんは3年も夫婦だったんですよ?その妻に対して何故、そんなに冷たくなれるんですか!」桃李にそう言われても龍月は表情一つ変えない。「それに姉さんは……!」そこまで言った桃李を止める。「桃李、止めて。もう良いのよ……」桃李が私を見下ろす。「でも、姉さん……」桃李の言いたい事は分かっていた。でも私は桃李の言葉を止めた。「ねぇ、龍月、携帯を車の中に忘れちゃったみたいなの、取って来てくれない?」甘えるような口調で華凜が龍月に言う。龍月はそんな華凜に微笑む。「あぁ、良いよ。待っていて」龍月は華凜の頭を少し撫で、私たちを睨み、歩き去った。龍月が居なくなると華凜は貼り付けていた微笑みを滑り落とし、私たちを見て嘲るように笑う。「久しぶりね、杏姉さん」華凜に姉さんなんて言われると嫌悪感でいっぱいになる。「あなた、留学していたんじゃなかったの?」そう聞くと華凜は笑う。「もう随分前に留学からは帰ってるわ」華凜の笑みは冷たく、そして私たちに近付いて来る度に、その冷たさが伝わって来るようで、私は背筋が冷えて行くのを感じる。目の前まで来た華凜は私を見て鼻で笑う。「自分の夫も繋ぎ留められないの?三年も夫婦だったんでしょう?その三年の間、一体、何をやっていたのかしらね?」華凜はそこでクスっと笑って言う。「あなたの母親だって結局、何も守れなかったものね。親子揃って同じ穴のムジナって事よね」そう言われて怒りが増す。華凜は私の妹だけれど、血は繋がっていない。義理の妹だ。私の母は事故で亡くなり、その後釜に華凜の母である美都が居座ったのだ、華凜を連れて。「あなたが今まで3年間、篠江家の奥様で居られたのは私が身を引いたからでしょう?その私が帰って来たんだもの、龍月は返して貰うわ」華凜を睨み付ける。華凜はそんな私を鼻で笑って言う。「篠江家の奥様っていう地位も私のもの」そこで桃李が口を挟む。「姉さんに近付くな、厚かましい!」そういう桃李を見て華凜がまた笑う。「どうして私がここに居るか、知りたい?」華凜は桃李から私に視線を移し、言う。「私のお腹の中には龍月の子供が居るの

  • あなたの懺悔に口付けを 離婚後、元夫は私の妊娠検査票を見て発狂した   3話 悲しみの朝

    結局一睡も出来なかった。普通は妊娠すれば眠くて仕方ない筈なのに。実際、私は昨日の夕方までは自身の眠気と戦いながら、特別な夜にしようと頑張って準備していたのだ。体は睡眠を欲しているのに、私の思考は止まらなかった。考えれば考える程、おかしい。私が龍月のご両親を車で撥ねろなんて命じる事は絶対に無いし、お金だって100万円なんてそんな大きな額を動かせる訳も無い。それに妹の華凜は今、海外に留学していて、2年前にも、今までにも誘拐されていた事なんて無かった筈だ。それに峰月美都は……。不意に電話が鳴る。スマホには桃李の名前。通話をタップした時にはもう泣いていた。「桃李……」私が泣いているのを察した桃李が聞く。「姉さん?!どうしたの?何かあった?」私は何をどう話して良いのか分からず、ただ泣いていた。桃李はそんな私を宥め、一人で居たらダメだと言い、自分の居る病院に来るように言う。約束させられた私は重い体を引き摺って、何とか身支度を整えて部屋を出る。病院に到着した私を桃李が出迎える。私の顔を見た桃李が驚いて、とにかく横になるように言う。病院の特別室に案内され、横になる。「顔色が悪いよ、何か体に変化は無い?」そう聞かれても私はもう何も感じていなかった。私を見た桃李の勧めで私は検査をする事になった。「大事な体だからね、念には念を入れておこう」桃李はそう言って微笑む。しばらくして桃李がまた病室に入って来る。検査結果が出たようだった。桃李は紙を見ながら難しい顔で言う。「数値が少し高いね……このままだと流産の可能性もある。」そう言われた私はまた涙ぐむ。そんな私を見て桃李が聞く。「一体、何があったんだよ……話して」上手く話せるか分からなかったけれど、私は一生懸命、昨日の夜の事を話して聞かせた。桃李はずっと私の話に耳を傾け、話し終えた私に言う。「何かおかしい気がしない?急にそんな手紙を寄越して来るなんて」そう言いながら桃李は腕を組む。「華凜が何かしたんだよ、きっと。だっておかしいじゃないか、辻褄が合わない事だらけだ」桃李が私の手を握る。「それにさ、姉さんのお腹の中には篠江さんの子供が居るんだ。姉さんのお腹の中の子供が篠江さんの子かどうか分からないって言うなら、出生前診断だって僕がやるよ」そう言われて私はそこでやっと希望の光を感じた。そうか、出生前診断がある

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